総務省がeSIMの普及推進|菅新政権が進める携帯料金改革はちょっとずれてきた…?
菅新政権となって早1か月が経過し、根幹に掲げている「携帯電話料金4割値下げ」の具体的な施策が出てきました。
2020年10月21日に報じられたのは下記の2つです。
本コンテンツでは管理人目線でこの二つについて私感を書きたいと思います。
総務省、携帯電話料金値下げに向けてeSIM普及へ…問題の本質はそこではない
総務省は携帯電話会社の乗り換えに際してカードの差し替えが不要な「eSIM」と呼ばれる機能を普及していく方針とNHKより報じられました。
携帯電話で通話や通信を行うためには、携帯電話事業者が発行した通信情報が入っているカード=SIMカードを挿入し、使用しているスマートフォンで通信事業者設定=APN(アクセスポイントネーム)設定を行って初めて通話や通信が可能となります。
(画像はSIMカードと呼ばれる通信チップ)
通常、大手キャリアからキャリアへ乗り換える際はこれらの手続きはすべてサービス窓口で行ってくれているため、キャリアしか契約したことがないユーザーにとっては全く縁遠い話でしょう。
しかし、キャリア(MNO)から格安スマホと呼ばれる、大手キャリアから通信網を借りて通信事業を行っている事業者(MVNO)へ乗り換える際は、実店舗がある事業者以外はSIMカードの差し替えやAPN設定に関してはすべて自分で行う必要があります。
(SIMカードが入っているスロットを開けるとこのようになっている)
総務省としては、キャリア回線網を借りて、キャリアよりも安い料金で通信を提供している事業者=MVNOへの乗り換えが進まないのは、これらSIMカードの差し替えの手間があるため、としています。
総務省はSIMカードの煩雑な手続きが乗り換えが進まない理由の一つになっているとして、「eSIM」を普及させることで乗り換えを手軽に行えるようにして競争を促し、料金の引き下げにつなげたい考えです。
確かにSIMカードの差し替えには手間がかかります。
多くのMVNOは実店舗を持たないことで人件費を削減し、ユーザーの通信コストへ還元しています。
SIMカードは郵送で届くため、申し込みから開通までには数日間のタイムラグがあります。
実際にはMVNOへ乗り換え手続きをした直後にスマートフォンが使えなくなるわけではなく、新しいSIMカードが到着し、「開通手続き」をしてからその場で新たなSIMカード情報に代わるという形になります。
乗り換えで自分の電話番号が使えない期間としては数時間から半日程度です。
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これがeSIMであれば即日、その場で切り替えることが出来るのは確かにメリットでしょう。
問題の本質はMNPにある
…しかしこれまでの話を読んできた読者の方で
「なんだ、格安スマホへの乗り換えってeSIMにすれば簡単なんだ!」
と思った方は誰一人いないでしょう。
そう、問題の本質はSIMカードの差し替えが手間だということでもなく、だからeSIMにしよう!ということでもありません。
この分かりにくい乗り換えの仕組み自体が問題なのです。
例えばA社からネット申込しかないMVNOのB社へ番号をそのまま乗り換え=MNP(モバイルナンバーポータビリティ)を行うとしましょう。
そうなった場合、まずA社に対して「転出番号取得手続き」をする必要があります。
(画像はキャリアから格安SIM「LIBMO」へMNPする際の図解)
発行された転出番号を正確に乗り換え先のB社に通知、後日郵送されてきたSIMカードを自分でスマートフォンに入れて、開通手続きを行ってようやく乗り換え完了となります。
…ですがもちろんこれで終わりではありません。
スマホをそのまま乗り換えられるケースは稀
今使っているスマートフォンがB社でそのまま使えるというケースは実は稀です。
多くの場合、2020年より以前にキャリアで購入したスマートフォンには、そのキャリアの回線以外では通信ができないようにする仕組み=SIMロックがかかっています。
乗り換え先のB社がA社から借用した回線網を使用していなかった場合、通信も通話もできません。
まず乗り換える前にSIMロックを解除=SIMフリー化する必要があります。
2020年10月1日からようやくキャリア3社が中古端末を含めた2015年以降に発売した端末に関してSIMロック解除が一定条件を満たすと可能になりました。
しかし、通信に詳しくない方はやはりこのSIMロックの解除すらままならないでしょう。
結局は各個人の情報リテラシーの高さによってできる人と出来ない人の差が生じてしまうのです。
eSIMは特定の端末でしか使えない
肝心なのは、現時点ではeSIMを提供している事業者は個人向けでは楽天モバイルとIIJの2社しかありません。
また、eSIMが利用可能な端末はiPhoneXシリーズ以降やGoogle Pixelといった一部の端末に限られています。
また、RakutenMiniのように実質的に接続可能バンドがふさがれていることで物理的に通信ができない端末も存在します。
この状況でeSIMを推し進めていくのは時期尚早でしょう。
キャリアメールの呪縛を解き放つには転送サービスでは物足りない
もう一つ飛び込んできた話が、「携帯電話を乗り換えてもアドレスが維持できる」という話題です。
2021年6月24日追記
キャリアメール持ち運びん実現は当初2022年にずれ込むと考えられていましたが、2021年中に実現する可能性が浮上してきています。
※日経新聞の会員向けコンテンツのため引用は致しません
この記事によれば、キャリアメールを残して、移転先に転送する仕組みを整備するよう大手キャリアに要請する見込み、としています。
キャリアメールを失うという恐怖
現在、キャリアを契約するともれなく「キャリアメール」と呼ばれるメールアドレスが貸与されます。
〇〇@docomo.ne.jp
みたいなものですね。
当然、これらメールアドレスは「貸与されたもの」であるため、携帯電話会社を乗り換えた場合、乗り換え先では使えなくなります。
最近ではメールに代わって「LINE」と呼ばれるコミュニケーションツールが主流となってきているため、メールアドレスを主要連絡手段とするユーザーは一部に限られてきている傾向があります。
LINE
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日経新聞の文面では、高齢者を中心に利用されているメールアドレスが携帯電話会社を変更するとアドレスが使えなくなって不便ということが乗り換えに二の足を踏むとしています。
これは確かにそうでしょう。
しかし、LINEを利用しているユーザーも実は同様に二の足を踏まざるを得ません。
それはLINEを登録する際にメールアドレスと紐づけすることが多いためです。
LINEには「引継ぎ機能」が備わっており、メールアドレス以外にも電話番号やSNSと紐づけることでスマートフォンが変わっても同じ識別IDで使用ができる仕組みができています。
ただし、メールアドレスだけに紐づけを行っており、キャリアメールが乗り換えによって使えなくなった場合、最悪のケースとして引継ぎができない可能性があります。
それだけではありません。
仮にクレジットカードなど、重要な金融機関情報にキャリアメールを登録していた場合、変更せずにキャリアメールが使えなくなってしまうと、本人確認の際に登録メールアドレス宛に送られる「2段階認証コード」の確認も同時に行えなくなってしまい、手続きが滞る可能性もあります。
実際にはこれらすべてのサービスを、携帯電話会社を乗り換えても問題ない「フリーメール」に置き換えてから携帯電話会社を乗り換えるのが正解ですが、それを分からないユーザーが大半ではないでしょうか。
加えて、どのサービスにメールアドレスを登録したかまで詳細に把握している人はごく少数でしょう。
メールアドレス移転サービスだけでは不安が残る
確かに総務省が打ち出した「キャリアメールを残したまま、移転先のメールアドレスへ転送する」というのは、今までお伝えしてきたリスクを少なくすることが出来ます。
しかし、移転先メールアドレスはGmail等で自分で作る必要がありますし、移転先メールアドレスを作れない、作り方を知らない人がいるのも事実でしょう。
この「移転先メールアドレスへ転送する」というのはベターな選択肢であってもベストな選択肢ではないように思います。
ベストな選択肢は「キャリアメールをそのまま残して移転先でも使えるようにする」ということでしょう。
(これは2020年2月に書いたコラムでもお伝えしていました。)
月額費用がかかったとしても、キャリアメールが移転先でも使えれば少なくとも前述した二段階認証で躓くリスクは格段に減ります。
また、いつ登録したかすら覚えていないキャリアメールで登録した重要サービスのメールアドレスをいちいち書き換える手間も省けます。
総務省はもっと本質を捉えた上で改革を進めるべきでは
そもそも、スマートフォン端末と通信事業者契約は別にすべきだったのでしょう。
国内に流通する端末のすべてがSIMフリーだったのなら、ユーザーは「お好みのスマートフォン」に「お好みの通信事業者のSIMカード」を差し込んで何の問題もなく通信ができたはずです。
そういった世の中になって初めて、総務省が検討している「わかりやすい解説サイトの整備」によって恩恵を受ける人が多くなるでしょう。
一口に携帯電話会社の乗り換えを促す、といっても、MNPであったり、SIMロックであったり、キャリアメールであったり…変えなくてはいけない仕組みが山積しています。
確かに総務省の施策は、菅新政権になってからようやく的を得てきた感じがありますが、「あと一歩」が足りない気がしています。
官僚だけでなく、通信業界を俯瞰している立場の人間の話を聞いてから施策を考案、実行に移していただくことがより良い通信業界の発展につながるのではないかと個人的には思っています。