携帯乗り換えをしないのはなぜ?|携帯電話の乗り換え等サポートワーキンググループで「スマホ乗り換え動向」が公表される
2021年6月22日、携帯電話の乗換え等サポートワーキンググループ(第1回)が開催され、今後設置が進められる「スマホ乗り換え相談所」についての現状と課題、運営方針などが報告されました。
その中で、「スマホ乗り換えをしない理由」についても報告がありました。
本記事では「スマホ乗り換えをしない理由」について公表されたアンケート結果を紹介致します。
情報参照元:携帯電話の乗換え等サポートワーキンググループ(第1回)
※本コンテンツの初稿は2021年7月20日ですが、2021年12月24日に加筆修正を行なっています。
本当はスマホ乗り換えをしたい!|利用者の乗り換え意向
公表されたアンケート結果によれば、20代〜70代では、約半数の回答者が携帯電話サービスを乗り換えたいと考えていることが判明しました。
- 20代|49%
- 30代|49%
- 40代|47%
- 50代|47%
- 60代|49%
- 70代|44%
→約半数が「乗り換えたい」と考えている
携帯電話会社を乗り換えない理由とは?
全年代で約半数の人が携帯電話会社の乗り換え意向を示していましたが、乗り換えをしない理由としては下記が上位となりました。
- 手続きが面倒くさいため|22%
- より魅力的なサービスがないため|21%
- 家族で同じ事業者(通信キャリア)を使っているため|20%
- メールアドレスが変わるため|12%
- 乗り換えるためには違約金がかかるため|4%
- 端末割賦代金の支払いが残っているため|2%
※抜粋、1番目に当てはまる項目のみ記載
若者ほどWEBでのMNPに意欲的・高齢者は対面希望|乗り換え意向について
アンケート結果によると、20代から50代の半数以上はWEBによる乗り換えを希望しており、60代以上は対面中心での乗り換えを希望していることがわかりました。
民間調査の結果でも「乗り換えない」が6割以上
MMD研究所が発表した調査では、6割以上のスマホユーザーがキャリアの乗り換えや料金プランの変更を検討していないという結果が得られました。
Source:MMD研究所
MMD研究所は、2021年2月に全国の18~69歳の男女約4万人を対象意識調査「2021年3月 通信サービスの利用動向調査」を実施しました。
この調査によると、メインで利用しているスマートフォンの月額料金は大手キャリアが平均約6,800円と高額になった他、サブブランド2社では平均約3,500円、格安スマホ(MVNO)の月額料金は平均約2,000円程度となりました。
新規契約や番号そのまま乗り換えなどの手続きをオンラインで行ったことがあるかどうかの設問では、大手3キャリアが20%ー30%台と非常に低く、7割以上の人がオンライン以外の手段=電話もしくはキャリアショップでの手続きしか経験していないことがわかりました。
現在利用している通信会社の料金プランの変更や乗り換えを検討しているかどうかの設問では、全体の63%が「検討していない」と回答しました。
理由としては、「オンライン専用プランでやり方がわからない」や「新料金プランについてよくわからない」ということが安易には考えられますが…筆者が考えるにもっと「深い事情」があるように思われます。
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乗り換えない理由は「スイッチングコスト」が非常に高いから
スイッチングコストという言葉聞いたことがあるでしょうか?
スイッチングコストとは、現在利用している商品・サービスを別のものに切り替える際に生じる金銭的・心理的な障壁=ハードルのことを指すマーケティング用語です。
利用者の購買行動はその価値がコストを上回る場合に発生すると考えられます。
今回の件では、現在利用しているプランや通信会社の料金プランと比較して、明らかにオンライン専用プランが「安く」「たくさんのパケット通信ができる」ということで、購買行動が発生すると考えられます。
これを妨げるものがスイッチングコストです。
スイッチングコストは「金銭的コスト=単純にいくら安くなるか」「物理的コスト=手間や時間」「心理的コスト=金額計算が困難など」があります。
スイッチングコストを下げるために、番号そのまま乗り換える仕組み、違約金の値下げなどが総務省によって進められてきましたが、それでも残る物理的コスト・心理的コストが大きいことが「6割の人が乗り換えない」という結果となっていることと思われます。
そもそも大手キャリアの廉価プランリリースの背景には、総務省の圧力とも取れる働きかけがありました。
実際のところ、キャリアにとっては利益率が下がるため廉価プランは導入したくないというのが本音でしょう。
キャリアの「オンライン専用プラン」はスイッチングコストをあえて上げることで、申し込める対象ユーザーを絞った「戦略的プラン」と言わざるを得ません。
スイッチングコスト「番号そのまま乗り換える方法が十分周知されていない」
携帯電話事業者を乗り換える場合、番号が変わってしまうと「電話番号を知人に連絡する手間がかかる=物理的コスト」、「連絡が途絶える人が出てしまう=心理的コスト」というスイッチングコストがかかります。
これを解決するための仕組みがMNP=モバイルナンパ―ポータビリティという仕組みです。
番号をそのままに携帯電話会社を乗り換えることが出来る仕組みです。
日本では「ツーストップ方式」と言って、番号をそのまま携帯電話会社を乗り換えるためには、上記図のように「現在利用している通信事業者」に対して利用者が「MNP転出番号(予約番号)」を取得し、概ね14日以内に乗り換え先の通信事業者に通知するという作業が必要です。(STEP1-3)
この作業はキャリアのショップであれば丁寧に店員さんが教えてくれるため、そこまでハードルは高くありません。
また、乗り換え先の通信事業者でも、ショップであればSTEP4までやってくれるでしょう。
しかし、オンライン専用プランについては、STEP1-4までを全て自分でやる必要があります。
特にSTEP4に関しては「SIMカードって何?」というところから始まる方がほとんどでしょう。
SIMカードとは契約した通信事業者で通信するための情報が入ったチップです。
これを挿入して「APN設定=接続先設定」をすることで初めて通信が可能となります。
このように乗り換える行為そのものが「多大な物理的コスト」となっており、SIMカード差し替えやAPN設定といった自身が知らない行為が「心理的コスト」となっています。
オンライン専用プランでは特にこの2つが大きなハードルとなります。
スイッチングコスト「各種メインサービスが使えない」
各種オンライン専用プランに共通して、通常のキャリアプランと比較して「使えない」サービスは下記の通りです。
キャリアメール(○〇@docomo.ne.jpなど)→2021年12月16日以降3キャリアで「メール持ち運び」がスタートしたためキャリアメールが持ち運べるようになった- 留守番電話サービス
- キャリア決済サービス
執筆時時点の2021年7月時点ではオンライン専用プランにおいてはたとえそれまで自社既存プランを使用していたとしてもオンライン専用プランではキャリアメールが利用できませんでしたが、2021年12月に3キャリアから「キャリアメール持ち運び機能」がリリースされたことで「キャリアメールが利用できない問題」は解消しました。
これが実現したことで、オンライン専用プランの他、どの携帯電話事業者でもそれまで利用していたキャリアメールが利用できるようになり、大きくスイッチングコストが下がった形となります。
ただし、「メール持ち運び」を利用するには各社共通して「回線解約後から31日以内にそれまで回線に紐づけていた各種IDを用いて専用サイトで手続きを行う」必要があり、利用するには月額330円(税込)がかかるというのはよく覚えておくべきです。
また、当然のように使えていた留守番電話サービスについても、「スマート留守電」などの有料サービスを利用する必要があります。
また、spモード決済などのキャリア決済サービスが使えないため、登録していたファンクラブなどのサービスについても変更する必要があります。
変更しない場合、支払いができなくなるため自動解約となることが多くのサービスでアナウンスされています。
このように、やったことのない手続きを自分自身で行う「心理的コスト」に加えて、これら手続きを行う「物理的コスト」が発生します。
また、ショップでの対応不可というのも大きな障壁でしょう。
スイッチングコスト「対応機種の問題」
日本国内の通信事業者が使用している電波は、通信事業者ごとに異なっています。
乗り換えた先で現在の携帯電話端末を利用するためには、その機種が使用したい通信事業者のBand=通信帯域に対応している必要があります。
加えて、SIMロックと呼ばれる「契約通信事業者以外で使えないようにするロック」を解除する必要があります。
また、機種を変更する場合、それまでに使っていたデータを新しい端末に移動する手間もあります。
これらすべてを自身で確認、実行することを考えると…うーんとなってしまう人が多いことでしょう。
スイッチングコスト「家族割・光回線セット割・クレジットカード割を踏まえて安くなるのかわからない」
各種キャリアには携帯電話料金とセットで自社サービスを使用することで、利用料金を割引したり、現金と同等に使えるポイントを付与することで他社に乗り換えないようにする囲い込み施策があります。
例えばドコモでは、複数回線契約すると「みんなドコモ割」が適用となり、2回線目は550円割引、3回線目は1,100円割引となります。
また、「ドコモ光」という光回線サービスを契約していると、1回線ごとに1,100円の割引となり上記みんなドコモ割と併用可能です。
さらには「dカードGOLD」でドコモの利用料金(携帯電話料金/固定回線使用料)を支払うと、支払金額の10%がdポイントで還元されます。
このように、自社サービスでまとめることによって大幅な割引を付与することでユーザーの乗り換えを抑止しています。
これはKDDIの「au PAYゴールドカード利用で10%還元」や「auスマートバリュー(固定回線セット割)」、ソフトバンクでも同様に割引を実施しています。
オンライン専用プランではこれらの割引が適用されません。
「乗り換えてもいくら安くなるのか計算が非常に面倒」という方が大半でしょう。
個人的には「キャリアのプランは高い」ので、オンライン専用プランや格安スマホ事業者に乗り換えた方が結果的に安価になるケースが多い印象を持っています。
乗り換えを促進するために総務省は試行錯誤
アンケート結果からも「乗り換えない理由」が明確になりました。
MMD研究所の調査によると2021年2月時点でのMVNOの利用者は全体の10.4%となっています。
大手キャリアは自社で通信回線を持っており、MNOと呼ばれています。自社で通信回線を持たずMNOから借りて通信事業を行っている事業者を「MVNO」と呼びます。
ドコモがトップシェアで35%、auが24.5%、ソフトバンクが15.7%、ソフトバンクのサブブランドであるワイモバイルが7.2%、新規参入の楽天モバイルが4.0%、KDDIサブブランドのUQモバイルが3.2%となっています。
MVNOは2020年9月時点で1450社(参照:Wikipedia)と言われていますが、わずか10%のシェアとなっており、2021年12月の調査結果ではオンライン専用プランの台頭もあってかさらに数字を下げました。
総務省は携帯電話の乗り換え促進のために掲げたアクションプランの中で「違約金の撤廃」「MNPワンストップ化」「キャリアメール持ち運び」の実現を目指しており、2021年にはキャリアメールの持ち運びを現実のものとしました。
2022年には、ソフトバンクが2022年2月1日からすべてのプランで契約解除料を廃止、KDDIでも2022年3月31日からすべてのプランで契約解除料を廃止する予定となっており、2021年10月1日から既に契約解除料を撤廃しているドコモとようやく足並みが揃う形となっています。
2022年に残す課題は「MNPのワンストップ」だけとなる格好でしょう。
乗り換えをしない理由のまとめ
- 乗り換えたい人の割合|約5割
- 乗り換えをしない理由|手続きが面倒くさいためー22% など
- 乗り換え方法の希望|20代ー50代はWEB手続き、60代以上は対面手続きを希望する割合が多い
総務省のアンケート結果とMMD研究所の調査から、乗り換えたい人は多くいる一方で、通信費が安価になるのはわかっているにもかかわらず、めんどくさいという理由で乗り換えない人が非常に多いという傾向があることがわかります。
支出と手間を天秤にかけた際に「手間」が勝るということは、携帯電話利用者の節約意識がそれほど高くないということが示唆される結果になったと考えられます。
このアンケートは、やはり総務省が行なったこともあり「世の中の現状を体現している」結果になったのではないでしょうか。
- 手続きが面倒くさいため|22%
- より魅力的なサービスがないため|21%
- 家族で同じ事業者(通信キャリア)を使っているため|20%
- メールアドレスが変わるため|12%
- 乗り換えるためには違約金がかかるため|4%
- 端末割賦代金の支払いが残っているため|2%
※抜粋、1番目に当てはまる項目のみ記載
契約解除料の撤廃、キャリアメールの持ち運び実現しているため、利用者にとっては益々乗り換えやすい環境が整ってきています。
2022年の課題は番号そのまま乗り換え(MNP)のワンストップ化でしょう。
ワンストップ化|現行の方式では、番号そのまま乗り換える際に①契約している携帯電話事業者から転出番号を発行してもらう②乗り換え先で転出番号を通知するという「ツーストップ」制度が採用されているところを、乗り換え先に通知するだけで乗り換えられる仕組み構築を進めている参考
家族割や固定回線セット割で引かれる最大金額は月額2,000円程度であることを考えると、格安スマホに乗り換えた方がそれらを加味しても安価になるケースが多いように思います。
魅力的なサービスかどうかについては、「スマホ乗り換え相談所」などの中立立場からの比較検証サービスを利用することで解消できるでしょう。
当サイトでも「スマホ乗り換え相談所オンライン」を提供していますので是非ご活用ください。
このように次々と「スイッチングコスト」の撤廃が進んできています。
あとはユーザーがどれだけ携帯電話料金に関心を持てるかというところが課題となってくるでしょう。
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