2020年9月4日、総務省発表の「令和元年度電気通信事故に関する検証報告」及び「電気通信サービスの事故発生状況(令和元年度)」の公表において、クラウドSIMの仕組みを用いたWiFiルーターに関する事故報告がされました。
この通信事故によりクラウドSIMの仕組みを用いたWiFiルーターサービス全般に関しての不安が高まりつつあると考えています。
技術提供元のuCloudlink社は2020年4月3日付けでクラウドSIMの仕組み自体は問題ないと声明を発表しています。
CloudSIMプラットフォームや通信端末自体は全く問題なく稼働していることをここに声明します。
日本国内においては、この通信事故を受けて「パケット無制限」を謳うWiFiルーターサービスが相次いで新規受付を停止し、パケット上限を設けた新プランへ移行したものが多くありました。
このことからも、クラウドSIMの仕組み自体は問題はなく、サービス提供元の運営方法に問題があったと考えています。
当社GreenEchoes Studioでは、自社運営サイトGreenWavesを通して、ユーザーに広がりつつある「クラウドSIMに対しての不安」を払拭すべく、実端末を用いた通信状況の調査を行いました。
下記に調査結果を報告致します。
【お知らせ】2022年7月1日の改正電気事業通信法施行に伴い、掲載サービスの料金プランが大きく変更されている場合があります。随時修正を行なっておりますが、最新のプランについては公式サイトをご参照くださいますようお願いいたします。
クラウドSIMの仕組みを用いたWiFiルーターサービスに関する調査
下記にクラウドSIMの仕組みを用いたWiFiルーターサービス(以下、クラウドSIMWiFiとする)に関する調査目的を掲載します。
調査目的
本調査は、日本国内におけるクラウドSIMの仕組みを用いたレンタルWiFiルーターサービスにおける不安を払しょくし、利用を検討している方が安心して利用できるサービスであることを証明することを目的とします。
調査方法
調査方法については下記に示します。
<調査方法>
- 国内にサービス展開している数社のクラウドSIMWiFiの実機を使用し、24時間10分おきに一定期間の定時計測を行う。
- 計測データを分析し、下記項目について数値を計測したものを比較検討する
<解析項目>
- 下り速度中央値|速度のばらつきの中での目安値
- 上り速度中央値|速度のばらつきの中での目安値
- Ping中央値|応答速度のばらつきの中での目安値
- キャリア回線接続率|一定のキャリアにどれくらいの割合でつながるか
- 下り高速回線接続率|下り10Mbps以上の計測データ割合
- 上り高速回線接続率|上り2Mbps以上の計測データ割合
- 接続キャリア別|高速回線接続割合
計測条件
計測条件について下記に示します。
- 測定場所:新潟市中央区
- 測定環境:高気密高断熱木造住宅、同一場所での測定
- 計測方法:Android端末に速度計測アプリ「SpeedCheck(Internet Speed Test, Etrality提供)」をインストールし、当該WiFi端末を無線LAN接続の後に自動計測計測設定を行う。計測間隔は10分おきとし、24時間計測を行う
- 測定期間:X年Y月Z日指定時刻~指定期日まで
- 有効試行回数(n):計測のうちエラーがない項目のみをデータ抽出して処理を行う
計測したサービス
サービス名については伏せさせていただきます。
測定期間に関しては下記の通りです。
サービス | 測定期間 | 有効試行回数(n) |
A社 | 2020年8月31日0時~ 9月5日23時50分 |
862回 |
B社 | 2020年9月12日0時~ 9月18日23時50分 |
1008回 |
C社 | 2020年10月4日0時~ 10月10日23時50分 |
1009回 |
D社 | 2020年10月5日0時~ 10月11日23時50分 |
1009回 |
E社 | 2020年10月11日0時~ 10月17日23時50分 |
985回 |
F社 | 2020年10月28日8時~ 11月3日23時50分 |
960回 |
G社 | 2020年10月24日0時~ 10月30日23時50分 |
1014回 |
H社 | 2020年10月21日0時~ 10月27日23時50分 |
1010回 |
備考
測定に用いた端末は一部を除きサービス提供元から貸与させていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
各サービスについては、測定期間がそれぞれ異なるため、単純比較は行えません。あくまでも傾向分析という形をとらせていただきます。
本測定は公平性を期すために測り直し等は一切しておりません。
通信速度は計測場所や条件によって大きく変化します。
測定結果
測定結果は下記の通りです。
サービス名 | 下り速度中央値 (Mbps) |
上り速度中央値 (Mbps) |
Ping中央値 (ms) |
キャリア回線接続率 (%) |
下り高速回線接続率 (%) |
上り高速回線接続率 (%) |
A社 | 18.8 | 4.21 | 18.8 | 90.3 | 79 | 85.8 |
B社 | 16.3 | 3.21 | 27 | 100 | 79.9 | 80.2 |
C社 | 4.2 | 3.6 | 29 | 100 | 8.9 | 66.2 |
D社 | 11.2 | 4.37 | 53 | 100 | 56.4 | 96.8 |
E社 | 19.9 | 1.67 | 42 | 100 | 91.8 | 37.4 |
F社 | 8.13 | 4.77 | 36 | 95.6 | 35.7 | 97.3 |
G社 | 23.4 | 1.64 | 33 | 100 | 97.7 | 30.1 |
下り速度中央値|速度のばらつきの中での目安値
サービス名 | 下り速度中央値 (Mbps) |
A社 | 18.8 |
B社 | 16.3 |
C社 | 4.2 |
D社 | 11.2 |
E社 | 19.9 |
F社 | 8.13 |
G社 | 23.4 |
各サービスの測定結果から下り速度の中央値を算出すると、4.2Mbps(C社)~23.4Mbps(G社)まで大きな差が生じる結果となりました。
上り速度中央値|速度のばらつきの中での目安値
サービス名 | 上り速度中央値 (Mbps) |
A社 | 4.21 |
B社 | 3.21 |
C社 | 3.6 |
D社 | 4.37 |
E社 | 1.67 |
F社 | 4.77 |
G社 | 1.64 |
各サービスの測定結果から上り速度の中央値を算出すると、1.64Mbps(G社)~4.37Mbps(F社)まで大きな差が生じる結果となりました。
ばらつきとしては下り速度よりも小さい傾向がありました。
Ping中央値|応答速度のばらつきの中での目安値
サービス名 | Ping中央値 (ms) |
A社 | 18.8 |
B社 | 27 |
C社 | 29 |
D社 | 53 |
E社 | 42 |
F社 | 36 |
G社 | 33 |
各サービスの測定結果からPing値の中央値を算出すると、18.8ms(A社)~53ms(D社)まで大きな差が生じる結果となりました。
キャリア回線接続率|一定のキャリアにどれくらいの割合でつながるか
サービス名/% | X社 | K社 | D社MVNO1 | D社MVNO2 | |
A社 | 65.4 | 24.9 | 9.6 | 0 | |
B社 | 100 | 0 | 0 | 0 | |
C社 | 100 | 0 | 0 | 0 | |
D社 | 100 | 0 | 0 | 0 | |
E社 | 100 | 0 | 0 | 0 | |
F社 | 95.6 | 0.2 | 0 | 4.2 | |
G社 | 100 | 0 | 0 | 0 |
格サービス別に接続回線種別について検証すると、多くのサービスでX社の回線が用いられていることがわかりました。
3種のキャリアに接続していたのはA社、F社のみでした。
D社の回線については、MVNO回線でのみ使用されていました。
同一拠点で定時計測を実施しています。
同一拠点においては電波状況が変わらないため概ね同一接続先となる場合が多いです。
下り高速回線接続率|下り10Mbps以上の計測データ割合
サービス名 | 下り高速回線接続率 (%) |
A社 | 79 |
B社 | 79.9 |
C社 | 8.9 |
D社 | 56.4 |
E社 | 91.8 |
F社 | 35.7 |
G社 | 97.7 |
下り速度が10Mbps以上となる割合は8.9%(C社)~97.7%(G社)と大きな差が生じました。
上り高速回線接続率|上り2Mbps以上の計測データ割合
サービス名 | 上り高速回線接続率 (%) |
A社 | 85.8 |
B社 | 80.2 |
C社 | 66.2 |
D社 | 96.8 |
E社 | 37.4 |
F社 | 97.3 |
G社 | 30.1 |
上り速度が2Mbps以上となる割合は30.1%(G社)~97.3%(F社)と大きな差が生じました。
計測結果からの考察
得られた結果を踏まえて考察していきます。
下り・上り通信速度について
8社のサービスの集計結果を見ると、3つの傾向がありました
- ダウンロード速度が高速|アップロード速度が低速
- ダウンロード速度が高速|アップロード速度が高速
- ダウンロード速度・アップロード速度共に低速
※高速の定義は下り10Mbps以上|下り2Mbps以上
これはSIMプール上に挿入されている物理SIMカードの通信速度に加えて、各社が個別にコントロールしているクラウドサーバー上の通信速度設定によるものと考えられます。
物理SIMカードの速度コントロールに関しては、発行元でないと制御ができないと考えられます。
多くのサービスが同様のX社の回線を用いているのにも関わらず速度にこれだけのばらつきが生じているのは、各サービスごとにクラウドサーバー上の通信速度設定が異なっていると推察されます。
接続先について
全8社の提供サービスにおいては、マルチキャリア接続を謳っています。
※マルチキャリア=国内キャリア回線
クラウドSIMの仕組みとしては、「その場で最も最適な電波を使って通信が可能」としていますが、実際のところはSIMプール上に挿入されている物理SIMカードの挿入割合によって大きく変化することが考えられます。
恐らくは全8社のサービスでは上記キャリアの物理SIMカードは挿入されているものの思われますが、その割合については公表されていません。
また、D社の回線に関しては、接続するインターネットサービスプロバイダがMVNEのものとなっているため、MVNOのSIMカードが用いられていることが推察されます。
まとめ|クラウドSIMについてはまだ透明化の余地がある
技術提供元であるuCloudlink社の公式サイトには、国内販売代理店との契約とエンドユーザーが通信できる仕組みについて解説されています。
また、総務省資料でも解説されているようにクラウドSIMの仕組みにおいては、販売代理店が契約した物理SIMカードの合計容量を利用者全員でシェアする形を取っていることがわかります。
これらクラウドSIMの仕組みを用いたWiFiルーターサービスにおいては、サービス提供元により使用されている物理SIMカードやクラウドサーバー上の通信速度制限設定が異なることから、実際に使用してみないとどれくらいの通信速度が出るのかはわからないというのが現状です。
現時点でこれら使用している物理SIMカードの種類や通信速度設定について公表しているサービスはありません。
この点について、クラウドSIMの仕組みを用いたWiFiルーターサービスにおいてはユーザーに広がる不安を払拭するためにもまだ透明化できる余地があると当事業では考えています。